同人誌とオタク市場の行方
本記事では同人誌とオタク市場の行方について見ていきたいと思います。同人誌文化の発祥から産業構造まで様々な角度から同人誌市場について考えていきます。
本記事では同人誌とオタク市場の行方について見ていきたいと思います。同人誌文化の発祥から産業構造まで様々な角度から同人誌市場について考えていきます。
同人誌という言葉が使われだしたのは、まだ日本の出版産業がその姿を確立する以前の戦前、出版に関わる法律もまだ確立されていないころでした。
地域をベースに同好の士が集まり、小説や俳句などの文芸同人誌を発行し、日本各地に流通させていたのが同人サークルでした。
当時の同人誌は、作家、評論家といった文芸人の交流の場であるとともに、新人作家の孵化器としての機能を果たしていました。この機能は、戦後出版社の機能が確立されていくと、直木賞などの文芸賞などが創設され、出版社に引き継がれていきました。
今日の同人誌は、個人や同好の士が集まったサークルなどが自費で出版する書籍、雑誌、ソフトウェアなどで構成されています。主流は既存のマンガの二次創作物、オリジナルのマンガ、小説・評論、同人ソフトに分類され、オタク文化の発信源として、そして新たな表現形態の孵化器としての機能を担っています。
同人誌オタクと言われる人は、若者に限定されず、20代を中心に、50代、60代までの広い層に拡がっています。
代表的な祭典でもあるコミケ(コミックマーケット)には、同人サークルに加えて、コスプレイヤーや芸能人も参加するようになり、従来のマイナーな存在から、メジャーな存在になりつつあります。
同人誌の市場規模は、コミケなどの頒布会での販売、同人誌専門書店での売り上げ、同人誌ダウンロードサイトの売り上げを合わせたもので、矢野経済研究所の調査によれば、2015年757億円規模と推定されています。女性のファン層が男性よりも多いのも特徴的です。
広くオタク市場と考えられている隣接市場としては、アイドル市場の1186億円には及びませんが、フィギュア市場316億円、ドール市場134億円、コスプレ衣装市場430億円、メイド・コスプレ市場112億円、恋愛ゲーム市場137億円、ボーイズラブ市場212億円と比べても大きな市場になっています。
商業出版の書籍販売が7000億円強ですから、まさにメジャーに向かって成長しつつあります。オタク市場の中でも、マンガやアニメは裾野が広く、フィギュアや鉄道模型、プラモデルなどの立体物は、高所得の傾向があり、アイドル分野は個人の支出金額では、他を圧倒しています。
購買スタイルにも特徴があります。矢野経済研究所の「オタク市場の徹底研究」によれば、同人誌オタクの年間平均購買金額は、平均で17000円を超えます。同人誌はもともとニッチな市場で、流通ルートも頒布会など限定的で、「買える時が買い時」という意識が強いことから購入意欲も旺盛と言えるでしょう。
商品単価はページ数などにもよりますが、コピー本と言われる複写機で製作されたものが200円程度、モノクロ印刷仕様が200〜600円、フルカラー印刷仕様が600〜1000円、同人ソフトが1000円〜2500円と言われます。成人向けの商品は、一般作品に比べて高めの価格設定です。
同人誌市場の作り手はアマが中心ではありますが、プロの作家や出版社との関係も少なくありません。
二次創作は著作権的には問題がありますが、プロの作家にとっては、同人誌で話題になることが、人気のバロメーターとなり、プロの作品の売り上げにつながることもあって、原作に悪影響を与えないのであれば、ファン活動の一環として黙認されています。二次創作と作家の生み出したオリジナルの作品は共存関係にあります。
出版社としても、人気の同人作家は確率性の高い新人作家候補であることから、同人誌市場を注目し、チャンスを狙っています。作家にとっても同人誌市場は直接読者と触れ合うことのできる場であることから、読者嗜好をつかまえる市場調査の場になっています。
プロ作家も新しいジャンルの作品作りを試みるために、ペンネームを変えながら、同人誌市場に参画しています。
コミケなどの頒布会は、コスプレイヤーにとっては格好の発表の場となっています。コミケと共通のターゲットであり、マスコミなどの取材も多いことから、売り込むチャンスの場にしています。
さらに、芸能人がこのムーブメントに参加し、話題作りに活用するなど、アマとプロがフュージョンするエンターテイメント空間に成長しています。
メジャーな頒布会は50万人以上を集客する大イベントに成長していることから、アニメ業界に加えて、テレビ、ラジオなどの放送業界、大手出版社、食品、小売業などの大手企業も参加するようになっています。
伝統的なメディア産業や既存業界が低迷する中で、新たなヒット作品や市場トレンドを見出したいという動きです。
このように、コミケやオタク市場が拡大する中で、変化の兆候も見えるようになりました。以前は、「けいおん!」や「艦これ」といった、その年のイベントを代表するコンテンツが、会場を占有していたのが、参加者が増えたことも影響しているのでしょうが、最近は嗜好が分散してきています。
強烈なキャラクターやコンテンツが新しいパワーで、会場全体にムーブメントを起こし、全体の流れを作っていく時代から、ある種定番の作品が定着し、ブランディングを進めているようです。
売れる作品と、売れない作品が共存しているのも同人誌市場の特徴で、売れなくても、赤字でも続ける作家、サークルがいることで、同人誌市場が成立しています。よりアンダーグラウンド志向の作品は、ネットの世界に逃避する動きもあるようです。同人誌市場にも変化が近づいているのかもしれません。